(early's) BLOG B-SIDE

裏側(B-SIDE)を覗き込む雑談メディア

信楽焼のたぬきが気になる

私は、とある旧友との会話をきっかけに、以来ずっと信楽焼のたぬきが気になって仕方がない

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↑これ

 

 

街中で、とりわけ古めの商店街を訪れた時には、

 

その店先やカウンターや棚の上に、あのとぼけた顔のたぬきが居やしないか、つい無自覚のうちに視界の隅で探す癖がついてしまった。

 

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高校時代のある期間、わたしには恋人のように付き合っていた女の子がいた。

 

もちろん本当の恋人とは違っていたし、私たちはしょっちゅう強めのケンカをしていて

ロマンスなどというものとは程遠い所に居たが、

なぜか互いに縁を切ることの出来ない、

 

心底うんざりして嫌いになっても、しばらく経てばまた一緒にラーメンを食いに行ってしまうような

 

そういうだらしなさしょうもなさにおいて、友人というより恋人という言葉が似合った。

 

 

 

そんなくせの強い彼女の、数ある強い癖のなかで、とくに私がお気に入りの、ちょっと馬鹿みたいで憎めなかった癖が

 

太った生き物が好き

 

 

という嗜好だった。

 

お相撲さんがすき。

丸い形の食べ物がすき。

中年太りのオジさんが好き。

 

 

そんな変わった彼女の丸いものレパートリーの中に、あの信楽焼のたぬきも入っていた。

 

当時の私は、飲食店の片隅に置かれた信楽焼のたぬきなど、気に留めたこともなかったし、なんなら若干引いていた

 

 

その出っ張ったハラを、しまいなさい。

ここは、食べる所だぞ。

自慢げにその、立派なハラを見せているんじゃない。

 

と、看護師の母ゆずりの健康オタクで食に関してはストイックな私は苛立ちすら覚えていた。

 

 

しかし彼女は、ある時入ったラーメン屋で、やっぱりだらしなく出っ張ったハラを讃えたたぬきの置物を見つけるなり、

 

 

アッ!

たぬきがいる!

 

 

と食い付いた。

振り返ると、たしかにニッと歯を見せて、信楽焼のたぬきが腹を出している。

 

太ったものが好きなことは承知していたが、焼き物も範疇なのか、と、

感心したような、

愉快なような、

でもなんだかうんざりするような気持ちになったのを覚えている。

 

 

しかしそれから、

不覚にも私は信楽焼のたぬきを見つけると、おっ。と気づいてしまう体質になってしまった。

 

 

そうやって信楽焼のたぬきを見つけて喜んでいるのは、きっと彼女と私くらいのものなのだ。

その不思議な確信が、私をちょっと愉快にさせる。

 

 

人の癖を知っているということは、それ自体が嬉しいものなのかもしれない。

 

 

 

の話で思い出すのが、今や日本の国民的歌手となった星野源である。

 

彼の歌は、この癖、というマーケットでいえば断トツにその真髄を極めた先達者であると言ってしまっていいと思う。

 

 

たとえば、

"くだらないの中に"

という曲の一節で

髪の毛の匂いを嗅ぎあって

臭いなってふざけ合ったり

 

だとか

 

首筋の匂いがパンのよう

すごいなって讃えあったり

 

だとか、

そのディテールが妙な説得感を伴って胸に迫ってくる。

 

 

そういうやりとりが、

彼の過去の人生のどこかに実際に起こったことなのだ、

と思わずには居られない。

 

 

彼の歌を聴いていると、

ガラス張りの動物園のショーケースから、ひとりの人間の1日の全てを覗き見ているような心地がしてちょっとハラハラする。

 

寝相がどんなだとか、食べ物は何が好きで、どんな順番で食べるのか、

テンションが上がるのはどんなときか、

体調が悪いときはどんな表情を見せるか、

トイレは一日何回くらいか。

 

 

オランウータンを観察するのとおんなじくらいの解像度の高さで、我々は彼の歌で語られる世界の生態系や癖を些細に観察することができる。

 

それくらい、彼は言葉に服を着せない

 

つまり、

 

誤解を恐れず言うならば

 

彼の仕事の本質は、

(良い意味で)オランウータンと大差ない

 

 そしてまた、彼女も私にとってはオランウータンだったのだ。

 

 

動物が、ただ生きているだけなのに、

私たちは動物園で感動したり、驚いたり、

時にはトラウマになったりする。

 

それってつまり、私たちはどうしても、癖ってものに底知れぬ魅力と魔力を感じてしまう生き物だからなのかもしれない。

 

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◎ほんじつの右手ライティング*1

2018.5.7

 

*1:

右手ライティングとは?

 

左利きの落書き名人あーりーによる、右手を使ったライティング&ドローイングのコーナー。

 

使い慣れない右手が醸し出すヘタウマの可能性を地道に追い求めていく。